【非戦の声㉑】「安保法施行に対して紛争地の現場視点から考える」日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事・谷山博史
NGO非戦ネット呼びかけ人
NPO法人日本国際ボランティアセンター代表理事 谷山博史
私は今から30年前にNGOの世界に入り、JVCで活動してきました。海外の現場では、冷戦時代のタイ・カンボジア国境の難民キャンプやラオス、カンボジア、アフガニスタンなどで12年間駐在しています。私が代表を努める日本国際ボランティアセンター(JVC)は開発協力と人道支援を行う団体ですが、紛争地での活動も多く経験してきました。カンボジア、ソマリア、イラク、ユーゴスラビア、アフガニスタン、パレスチナ、スーダン、南スーダンなどです。私自身とJVCの体験と知識に照らした時、政府の進める安保法制がいかに紛争現場の現実を無視した危険なものであるかをはっきりと見通すことができます。日本を戦争の渦中に引きずり込み、戦争の世紀に向かう危険な世界の状況を加速することになるという強い危機感を抱いています。
紛争地の武力行使
まず初めに指摘したいことは、与党の強行採決によって成立した安全保障関連諸法が、想定されうるあらゆる場面で日本が攻撃されていないのに武力を行使することを可能にしてしまったということです。集団的自衛権の行使のことだけではありません。重要影響事態法や国際平和支援法で定めた他国軍に対する後方支援やPKO法の改正と自衛隊法の改正で実施可能になった正当防衛の範囲を超えた攻撃的な武器使用は、政府がどのように言い繕っても、紛争の現場では武力行使に他ならないのです。
アフガニスタンでは米軍をはじめ有志連合がタリバーン殲滅のための対テロ戦争を行うと同時に、国連の授権によって派遣された多国籍軍の国際治安支援部隊(ISAF)がアフガン政府を支援するという形で安定化作戦を行っていました。異なる目的と指揮系統をもつ2つの外国軍が「テロリスト」相手の軍事作戦の中で境界線を失い、住民を巻き込んだ戦争の泥沼に陥っていきました。私がアフガンに駐在していた2006年2つの軍隊は統合され、後方支援を名目としたISAFも住民と混在する敵の攻撃に晒され、防御が反撃に、反撃が過剰な攻撃へとエスカレートし、多くの罪のない住民を殺しました。ISAFの外国兵士も多数の死者を出しました。
「駆け付け警護」実施で紛争に巻き込まれる
JVCが活動するスーダンの南コルドファン州では2011年内戦が勃発しました。JVCの日本人スタッフは逃げ遅れ事務所で孤立しました。夜間10名あまりの武装集団が事務所に押し入りスタッフを拘束し、事務所の金品を略奪しました。兵士は夜明け前に去っていきましたが、その間JVCが紛争下で取り残されたと知っていたはずPKO部隊が救援に来ることはありませんでした。救出に来てくれたのは国連の非武装の民生支援機関でした。PKO部隊は内戦下で部隊を派遣すれば武器を用いることになり、一度武器を使用すれば内戦の当事者になってしまうことを知っていたのです。2013年の暮れに起こった南スーダンの内戦でも、内戦下に取り残された外国人をPKOが救出するということはありませんでした。日本政府が「国及び国に準じる組織ではない」集団に対する武器使用は憲法で禁止する武力行使ではないといくらいったところで、攻撃される武装勢力にとっては武力行使以外の何ものでもないのです。
邦人保護に駆け付け警護は必要ない
もう一つだけ例をあげましょう。JVCがまだバクダッドに駐在していた2004年4月、ファルージャ近郊で高遠菜穂子さん他2名の日本人が武装勢力に誘拐・拘束されました。その時自衛隊はサマワに駐留していました。この状況のなかで自衛隊が救出に動いたらどうなっていたでしょうか。間違いなく高遠さん達の命はなかったでしょう。高遠さんが解放されたのは高遠さんが丸腰だったこと、そして自分で自衛隊とは関係のない中立のボランティアであることを武装勢力に説得したからです。アフガニスタンでもNGOスタッフの誘拐は頻繁に起こりますが、九分九厘交渉によって解決しています。
戦争に「後方」は無い
現代の戦争はほぼすべて対テロの戦争です。対テロの戦争は住民の中で戦う戦争です。前線も後方もありません。一度武器を用いればそこはたちまち戦闘地域になり、一層の攻撃に晒されます。戦闘・戦争の当事者となってしまうのです。防衛大臣は自衛隊のリスクは高まらないと言いましたが、自衛隊どころかそこで活動するNGOも、在住日本人も、さらには国を越えて日本の私たちでさえ、戦争の当事者とみなされてしまうということを認識する必要があります。つまり私たちは自衛隊が「テロリスト」を殲滅する作戦に参加することで「テロリスト」にとっての敵となり、攻撃の対象となるのです。
対テロ戦争は終わりのない戦争です。アメリカやNATO諸国は日本をこの戦争に巻き込もうとし、日本は自ら巻き込まれようとしています。日本が平和主義のもとで戦後70年培ってきた国際社会の中での信頼の資産が今失われようとしています。この終わりのない戦争の時代に日本が果たすべき役割は武力によらない紛争の解決なのです。安保法制は廃止しなければなりません。最後に私がアフガニスタンに駐在していた時に地元の人から聞いた日本への期待を皆さんと共有します。
「日本の援助はもっとも信頼している。なぜなら日本はアフガニスタンに軍隊を送っていないからだ」「今必要なのはタリバーンとの交渉による和平だ。その交渉の仲介ができるのは軍隊を送っていない日本しかない」
そしてもう一つ、NGO非戦ネットの呼びかけに答えて安保法制に反対する国際共同声明に賛同してくれたアフガニスタンのNGO連合組織Afghan NGO’s Coordination Bureau(ANCB)のメッセージです。
「ANCBはメンバー204団体を代表してNGO非戦ネットに賛同し、連帯します。私たちは日本のNGOの積極的な行動を強く支持します。世界中の市民は、平和的な解決方法を取る立場に立つべきです。40年前からの紛争に苦しんでいるアフガニスタンのような状況を招く、武力による方法とは異なる方法をとるべきであると考えます」
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